インテリアとしてのアクアリウム

インテリアとしてのアクアリウム

アクアリウムによる「癒やし」

とあるクリニックの待合室に、大きなアクアリウムが置いてありました。明るい光の中、美しい小魚がゆったりと泳いでいます。そのようすを、クリニックに来た小さな女の子が、飽きることなくずっとながめていました。
偶然、そんな光景を目にしたのですが、子どもにとって「クリニック」というのは、できれば来たくない場所、不安を感じる場所のはずです。あの女の子も、おそらくどこか不安だったのでしょう。だからこそ、安心できる何かを感じたくて、熱心にアクアリウムを見つめていたのです。
 
アクアリウムには、人を安心させ、緊張感をほぐし、ストレスを軽減するはたらきがあるとされます。水や光のゆらぎ、魚たちのゆったり泳ぐ姿、水草がゆれるようす、かすかな水音、そうしたものが視覚・聴覚を通じて脳に伝わり、ストレスをほぐすと考えられます。
少し前に「1/fゆらぎ」という言葉がはやり、エアコンや扇風機など、応用した製品も登場しました。「1/fゆらぎ」は規則性と不規則性が入り混じった波で、自然界で起こる数多くの現象に認められます。海から聞こえる波の音、風のそよぎ、川のせせらぎ、星のまたたき、樹木の木目、小鳥のさえずりなどです。人工的なものにも認められます。美しいと感じる音楽にもありますし、少し遠くから聞く都市の喧噪にすら、1/fゆらぎはひそんでいます。
さらには、人間の体内の現象にもあるのです。心拍、脳波、手拍子のゆらぎなどです。神経をつたわる電気パルス信号のゆらぎからくるものと考えられています。人間の身体の中にもあるリズムだからこそ、自然の中で受け取って親近感や安心感をいだくのでしょう。日本における1/fゆらぎ研究の第一人者である武者利光さん(東京工業大学教授)は、「1/fゆらぎがあると生体内の情報伝達が円滑に行われるため、生体は基本的に1/fゆらぎを取り入れている。それゆえ、自然界の1/fゆらぎ現象に対し、生体である我々が親近感をいだくことになる」としています。
アクアリウムからも、視覚的・聴覚的に心地よい1/fゆらぎが伝わってきているのでしょう。
 
しかしアクアリウムには、それだけではなく、相乗効果を起こしながら「癒やし」につながっているほかの要素もあります。
 
ひとつには「色」です。
アクアリウムがもつ青やみどりといった色、そして魚たちの鮮やかな色です。
「青」には、心を落ち着かせ、安静な気分や眠りにさそう効果があるとされます。「みどり」にも目を休ませる効果、リラックス効果があると言われています。アメリカの心理学者カプランは、植物のみどりが精神的疲労を癒やして注意力を回復させる効果をもつことを実験により確認し、「注意回復理論」をとなえています。
 
もうひとつには「アニマルセラピー」効果があります。
動物とかかわり、ふれ合うことでストレスを解消したり、リラックスしたりしようとするものがアニマルセラピーです。
本来アニマルセラピーには、犬や猫のようにコミュニケーションがとりやすい動物、人間と相互作用しやすい動物の方が向いています。
しかし魚は魚で、ゆったりのんびりした動作を見せてくれます。水槽の広いスペースで、どちらに泳いでいくのか、気まぐれなのか目的があるのか、よくわからない運動をします。「コミュニケーション」というのとは少しちがいますが、「1/fゆらぎ」的な動きを見せてくれることにより、ストレス軽減効果をあたえてくれるでしょう。
 
アクアリウムでは、「1/fゆらぎ」、「色彩」、「アニマルセラピー」というこの3つの要素が相乗効果を発揮しながら作用します。ストレスを軽減し、リラックスさせる効果は大きいものと考えられます。
上に挙げたカプランが1995年に行った実験と似たような実験が、アクアリウムでも行われています。「注意回復理論」の検証です。30人の被検者をアクアリウムがある条件の実験群と、アクアリウムがない条件の対照群に分け、30分間英文のタイピングをしてもらい、10分の休憩時間をとってもらいました。作業の前後と休憩後に主観的な気分の聞き取りと唾液アミラーゼの測定、そして休憩後にアクアリウムの有無それぞれの群で疲労回復実感と全体的印象の聞き取りをおこないました。心拍数と視線の動きは実験中を通じてモニターされました。
実験の結果、アクアリウムに対する「無意識的な注意」、ぼんやりとした注意が、英文タイピングという「方向性注意」による疲労を回復させ、ストレスを緩和させる効果をもつことが確認されています。
もう少し科学的検証をかさねる必要はありますが、アクアリウムによる「癒やし」の効果には、一定の科学的根拠があります。
 
  • あらゆる場所にふさわしいインテリアとしてのアクアリウム
では、そのように癒やし効果をもつアクアリウムは、どんな場所に置くのがよいでしょうか。
最初に書いたような、クリニックの待合室にはもちろん向いています。子どもだけでなく、多かれ少なかれ不安や不快な症状をかかえた人たちがあつまる場所ですから、当然「癒やし」は必要になります。場合によっては、診察室や処置室に置いても有効なのではないでしょうか。雰囲気が明るくなりますし、医師も患者もリラックスできます。
 
また、上記の「注意回復理論」の実験からみて、集中力を必要とする作業の合間に、アクアリウムをながめて疲労を回復させることにより、集中力が回復して作業の能率を高く保つ効果も期待できます。したがって、オフィスの中や休憩スペース、社員食堂、工場の従業員休憩スペース、学校、教室など、何であれ「がんばる」人たちがあつまる場所にはふさわしいでしょう。
休憩するためのスペースに向いているならば、食事やお茶のための空間にも当然ふさわしいでしょう。レストラン、カフェなどの飲食店です。実際にアクアリウムを店内に置いている飲食店は少なくありません。アクアリウムの維持・管理にはそれなりの手間と経費がかかるはずですが、多くの店が維持しているということは、アクアリウムはお客のためにもなっており、おおぜいのお客を呼んでいるのでしょう。
 
何かを「待つ」ためのスペースにも向いています。クリニックの待合室もそういうスペースですが、もっと広い意味で「待つためのスペース」です。
たとえば、空港ではチェックイン前後の時間が長くなることもあります。お茶を飲むなどして時間をつぶすのもいいですが、ただ待つのでもアクアリウムがあればイライラ気分はずいぶんと癒されるでしょう。
一般のオフィスビルのロビーにも向きます。来客が受付で来意を告げ、待たされる間の時間、アクアリウムをながめていてもらえば、緊張もやわらぐでしょう。アクアリウムがコンパニオンの役割を果たしてくれるわけです。
 
「ぼんやりする」、「リラックスする」ためのスペースといえば、やはりいちばん身近なのは「わが家」です。
リビングに、ダイニングに、家族みんなの視線がとどくところにアクアリウムがあったら、家庭の雰囲気もなごやかで幸せなものになるのではないでしょうか。もちろんこの場合は自分で所有して、自分でめんどうを見ることになるのですから、趣味としての楽しみにもなりますし、家族の間でのコミュニケーションにも花をそえるでしょう。
なによりも「おしゃれ」です。知人を招待したくなるかもしれません。
 
ストレスと緊張をほぐし、リラックス効果をもたらすアクアリウムは、くつろぐためのあらゆるスペースにふさわしいインテリアです。


水槽メンテナンス・インテリア(大阪)